近年、帝王切開で分娩する女性が急増し、日本では妊婦さんの5人に1人が帝王切開で出産しています。
お産の場に帝王切開という技術が導入されたことによって、母子ともに救われる命が飛躍的に増加したことは間違いありません。
しかしその一方で、帝王切開にはリスクもあります。
子どもの発達過程や親子の愛着形成に影響が生じるなど、その後の身体的、精神的な健康を直接的に左右する可能性があるのです。
この記事では、
- 帝王切開が母親に与えるリスク
- 帝王切開が子どもに与えるリスク
について、具体的に解説します。
帝王切開によるお産が増え続けている現代だからこそ、これから出産を控えている方には、そのリスクについても十分に理解してもらいたいと思います。
帝王切開が及ぼす母親へのリスク
愛情ホルモン「オキシトシン」の分泌量低下
母親側のリスクの一つは、オキシトシンの分泌量低下です。
分娩が始まると、脳の下垂体からオキシトシンというホルモンが分泌されます。
オキシトシンには、
- 子宮を収縮させて陣痛を起こす
- 出産後、子宮の血管を圧迫することで大量出血を阻止する
- 母乳の分泌を促す
など、産前産後の女性にとって非常に大切な役割を果たします。
ところが予定帝王切開では、基本的に陣痛が始まる前に手術が行われるため、オキシトシンが十分に分泌されていません。
緊急帝王切開の場合も、何らかのトラブルによって陣痛の途中で手術をすることになります。
実際に、自然分娩と帝王切開で出産した人を比較すると、帝王切開の方がオキシトシンの分泌量が圧倒的に少ないという研究結果が出ています。
また、オキシトシンは別名「愛情ホルモン」とも呼ばれ、母子の絆や愛着形成にも影響を及ぼすため、出産時の分泌量はその後の育児にも影響する可能性も否めません。

カンガルーケアが困難なケースが多い
カンガルーケアとは、産まれたばかりの赤ちゃんを母親の胸に抱くことをいいますが、産後すぐに肌を触れあうことで、
- 母子ともに安心感を抱く
- 母親のホルモン動態が安定する
- 母乳の分泌が促される
- 赤ちゃんの体調が安定する
といった効果があると考えられています。
親子の愛情形成や母乳育児のためには、産後30分以内に赤ちゃんを抱き、2時間程度スキンシップをとることが推奨されていますが、帝王切開の場合は術後機械によるモニタリングや医療処置を行うため、カンガルーケアが難しくなります。
中には帝王切開でもカンガルーケアをする人もいますが、優先すべきは母子の健康です。
帝王切開によるお産では、カンガルーケアは難しいと考えておいた方が良いとかもしれません。

子宮組織の瘢痕化
帝王切開で胎児を取り上げた後は、切開した子宮を縫合します。
どんな手術にもいえることですが、一度メスを入れた組織が100%元の状態に戻るということはありません。
時間経過とともに組織は瘢痕化し、硬くなっていきます。
帝王切開をした人の多くが次の出産も帝王切開になるのは、手術によって子宮壁が薄く硬くなることで、子宮破裂のリスクが生じるからです。
また、長期的な視点で考えると、子宮組織の瘢痕化は内臓系の血流低下、慢性腰痛の要因となりやすく、帝王切開をした数十年後にその影響が現れることもあります。
・関連記事:すべての妊婦さんに読んでもらいたい超おすすめ本!
帝王切開が及ぼす子どもへのリスク
物理的な圧迫を受けて出生する
次に、子ども対するリスクです。
まず、帝王切開で出産するという時点で、お腹の赤ちゃんにとって良い状況にあるとはいえません。
逆子であったり、へその緒が巻き付いていたり、産道が狭かったりと、自然な形で出生できないリスクが必ずあるからです。
このような場合、胎児の身体には物理的な圧迫が加わり、背骨や骨盤の骨格系にストレスがかかることになります。
胎児期の骨格の問題は、出生後の発達過程にも影響を与え、慢性的な頭痛や肩こり、精神的な症状などを発症する素因となる可能性もあるため、軽視できません。

呼吸機能に問題が生じやすくなる
お腹の赤ちゃんは、羊水の中に浮かんだ状態で過ごしています。
普段私たちの周りは空気で満たされ、呼吸機能を持つ肺が酸素を取り入れて二酸化炭素を排出していますが、胎児を取り巻くのは空気ではなく液体です。
そのため、胎児期の肺は気体を交換する呼吸機能を持っていません。
自然分娩の場合、狭い産道を潜り抜けてきた赤ちゃんが体外に出た瞬間、肺に空気が入り込み、呼吸機能が開始します。
出生後、肺呼吸に切り替わるためには、肺の中の羊水が速やかに排出される必要があり、自然分娩では、産道で胸部を圧迫されることで羊水が排出されるようになっています。
さらに、出生後に産声をあげることで肺が拡張し、血流も増加することによって、羊水が一気に排出されるのです。
帝王切開では産道を通るプロセスがなく、羊水を肺に含んだまま出生することが多いため誕生と同時に泣かないケースは珍しくありません。
そのため、帝王切開で産まれた子どもはスムーズに呼吸機能を獲得することが困難な場合も多く、一過性多呼吸などの呼吸障害をきたす確率が高くなることが指摘されています。
アレルギー罹患率が高くなる
自然分娩では、胎児が産道を通るときに母親の膣内細菌に接触しながら誕生します。
お腹の中にいるときは基本的に無菌状態の環境なので、産道を通るときにはじめて乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌を含む様々な菌を獲得することになります。
そのため、赤ちゃんの腸内細菌は母親の膣内細菌や腸内細菌の組成と類似するといわれているんですね。

腸内細菌の種類は100以上あり、数にして100兆個ともいわれています。
腸内に生息する細菌の種類は個人によって異なり、年齢や環境などの要因によっても左右されます。
胎児の身体は、母親の膣内細菌を獲得することで免疫システムが作動し始め、体外の環境に適応できるようになるのです。
ところが帝王切開では、こうした細菌曝露の機会がないため、悪玉菌の侵入を防いだり腸の運動を促したりする善玉菌の生着が遅れてしまいます。
結果として、帝王切開で産まれた子どもは喘息やアレルギーを患う可能性が高くなり、事実、
アレルギー体質の母親から産まれた子どもを対象にした調査では、帝王切開による子どもは食物アレルギーになるリスクが7倍高かったという報告があります。
もちろん帝王切開で産まれたとしても、その後赤ちゃんは空気中の細菌を吸い込んだり、授乳時に母親と接触して腸内細菌を獲得していくでしょう。
しかし妊娠中の母親は、子どもにとって最適な腸内細菌を提供すべく、出産に備えて膣内の状態を変化させています。
この母親の菌をそのまま受け継ぐか、そこら辺の空気中の細菌を生着させるか、どちらか赤ちゃんにとって望ましいのか、その答えは明白ですね。

メリットとデメリットを知ろう
帝王切開について多くの病院で説明されるのは、手術の方法や流れに関してであり、具体的にどのようなリスクがあるのかについて事細かに説明されることはありません。
上述したように、帝王切開は母親や子どもに対して何かしらのリスクを伴います。
ですが、必要以上に心配する必要はありません。
リスクよりも大きなメリットがあるから医師は帝王切開を選択するのです。
母と子の命は何にも変えることはできませんよね。
私がここで帝王切開のリスクについてを事細かに書いたのは、読者の方の不安を煽るためではありません。
事前に情報収集することで、仮に何かトラブルがあったとしても落ち着いて対処できるようにと願ってのことです。
医療処置を受ける際は、必ずメリット、デメリットの双方を理解した上で臨みたいですね。
・関連記事:出産はなぜ痛いのか?ヒトだけが難産である理由
コメント