不妊治療の増加に比例して、このような悩みや疑問を持つ方が多くなっています。
タイミング法で妊娠に至らない場合に、次のステップとして提案される人工授精。
生殖補助医療の中では比較的自然妊娠に近い方法であり、タイミング法の次の段階という位置付けになっています。
しかし人工授精の妊娠率は、体外受精や顕微授精などその他の生殖補助医療と比べると非常に低いというのが現状です。
本記事では、
- 人工授精の妊娠率
- 人工授精の妊娠率が低い理由
について、わかりやすく解説していきます。
人工授精を検討している方は、本記事を参考に治療を受けるかどうかを考えてみてはいかがでしょうか。
※生殖補助医療については、「人工授精、体外受精、顕微授精の違いをわかりやすく解説」をご覧ください。
人工授精の妊娠率

人工授精の年齢別の妊娠率は以下の通りです。
年齢 | 妊娠率 |
20代 | 12~13% |
30~34歳 | 9~10% |
35~39歳 | 7~8% |
40~44歳 | 3~4% |
45~49歳 | 1~2% |
人工授精を受ける人の多くが30代以上であることを考えると、妊娠率はとても低く感じるかもしれません。
排卵誘発と組み合わせることで妊娠率を上げることができるといわれていますが、個人差があり、年齢によっても異なります。
さらに、この数字は妊娠する(着床する)確率であるため、流産してしまう場合も考慮すると、出産に至る確率はさらに低くなるでしょう。
ちなみに、体外受精と顕微授精を合わせた妊娠率は以下の通りです。
- 30歳…27%
- 35歳…25%
- 40歳…15%
- 45歳…3%
※日本産婦人科学会より引用
この数値と比べてみても、人工授精の妊娠率がいかに低いかがよくわかりますね。
その理由として、主に以下の2つの要因が関係しています。
【理由1】適応でない人が受けている

人工授精の妊娠率が低い理由の一つに、人工授精の適応でない人が受けているという現状があります。
例えるなら、末期がんで全身に転移している状態で、手術をして一部の臓器を摘出するようなものです。
転移してしまっている以上、あまり意味がない治療ですよね。
しかし実際には、人工授精の治療においても同じようなことが起きているのです。
人工授精の仕組みと適応
人工授精は、排卵の時期に合わせて膣から子宮内に精子を注入する方法です。
人工的に管を通して精子を送り込むことで、受精の場である卵管に到達する精子数を増やすことが目的とされています。

上の図を見てもわかるように、人工授精では精子を子宮に注入する過程を人為的に行うだけなので、やっていることはタイミング法とほぼ変わりません。
普通の性交と比べると子宮頸管の奥まで精子を送り込むことができますが、その後精子と卵子が巡り合って受精するかどうか、受精卵が子宮内膜に着床するかどうかは、自然妊娠と同じ条件での確率ということになります。
したがって、人工授精の適応になるのは、以下の2パターンのみです。
- 子宮頸管に問題がある
- セックスレス
子宮頸管から出る分泌液が不十分であったり、子宮頸管に奇形がある場合は、精子が子宮の最初の関門である子宮頸管を通過できない可能性があるため、人工授精が適応になります。
病院では“とりあえず”人工授精を勧められる
ところが、病院では「タイミング法の次のステップ」として人工授精を勧められるケースが非常に多いのです。
人工授精の適応かどうかを思案することなく、あるいは可能性は極めて低いと判断しているのにも関わらず、「とりあえずトライしてみる」というニュアンスで提案されているように思えてなりません。
費用の面で考えても、一度に数十万円の自己負担を強いられる体外受精と比較すると、1回1~2万円の人工授精はハードルが低いという認識なのでしょう。
でも、よく考えてみてください。
極めて確率の低い治療に、お金や時間、労力をかけるのはもったいないと思いませんか?
時々、両方の卵管が閉塞している方が医師の勧めるままに何度も人工授精にトライしているという話を聞きますが、このような場合、人工授精をする意味は全くありません。
いくら子宮に精子を注入されたとしても、卵管が閉塞している以上は受精することができないからです。
この場合は、人工授精をとばして体外受精にステップアップするか、もしくは別の方法で卵管閉塞に対する治療を行うべきでしょう。
・関連記事:『両側の卵管閉塞があっても自然妊娠は可能です【実例を紹介します】』
【理由2】精子調整による精子の質の低下

人工授精の妊娠率が低いもう一つの理由は、精子調整にあります。
通常、人工授精では採取した精子をそのまま注入するのではなく、受精能の高い精子を選別してから注入されます。
その際に、精子に対して薬品を使ったり遠心分離器にかけてたりするのですが、皮肉にもこの処理によって精子が傷つけられる恐れがあるのです。
実際に操作を行う肺培養士によると、精子調整前後では精子の寿命に差が出ることがわかっているようです。
また、精子の選別について、見た目上は奇形がなく運動率が良かったとしても、中身のDNAが損傷あるいは欠損しているという場合もあります。
精子調整はそのメリットだけが伝えられる傾向にありますが、必ずしもプラスに働くわけではなく、むしろリスクもあるということは知っておく必要があるでしょう。
【参考文献】
・関連記事:精子力を高めるために重要な5つのこと【精液検査ツールも紹介】
人工授精の妊娠率が低い理由:まとめ

【人工授精の妊娠率が低い理由】
①人工授精の適応外の人が受けている
人工授精の適応:子宮頸管に問題がある、セックスレスの2パターンのみ
②精子調整によって精子の質が低下する
人工授精を考えている方は、この治療が今の自分にとって本当に必要であるのかを考えてみましょう。
もちろん、そのためには医学的な検査や知識、さらには相手の理解も必要になってきます。
妊活という夫婦にとって大切な時間を無駄にしないためにも、担当医やパートナーと十分に話し合い、悔いのない選択をしていきたいですね。
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